ザワザワと賑やかな声が響く街角に久々に足を踏み入れる。
夕方は人気の無くなるこの場所は、夜になると淡いオレンジ色の電灯で照らされバルの明かりが窓からもれる。
昼間の喧騒よりも静かで、でも夜中独特の静けさより賑やかなこの時間が、私は一等好きだったのだ。
「…まあでも、今はもうはしゃいで踊るなんてしないけどね」
石畳みの道路に置かれたテーブルにサングリアを置いて、流しのミュージシャンの奏でる音楽に身を任せた若者のグループを見つめる。
「いいじゃないか、踊れば。またあの頃みたいに」
同じテーブルでエールを飲む彼も、昔は若者らと同じように手を取り合って踊って、そして夢を語り合った。
私も、彼と彼の友人達の楽しそうな雰囲気に惹かれて同じように真似ていった。
そしてそれは、どんどんと若い世代に継がれていって、今はもう私達は見守る役目。
「バカね、もうあんな風に気楽に楽しめるほど若くはないのよ」
「でも全てを捨てるほど老いてもない。未来に夢を語っていたあの時の君はどこへ消えた?」
「何年前だと思ってる?もう両手を超えるほど前の話よ」
クスクスと笑うとグラスに口をつける。甘酸っぱくて苦い味が口に広がる。
「昔はワインが苦手だったのよ。苦くてこれでさえ飲めなかったの。…でももう飲める。酸いも甘いも、もちろん苦いのだって嚙み分ける事ができるのよ」
グラスを置いて、また踊る若者達を見つめる。
不安定な石畳を軽い足取りでクルクルと回る彼ら彼女らは、きっとまだまだ夢で溢れているのだろう。
弾けるような笑顔に、遠い日の自分を思い出す。
「君は、いつから自分が大人になったんだと思う?」
静かなその声には顔を向けず、穏やかに凪いだ心で答える。
「期待しないでいる方が楽なことに気付いたら、大人になってしまうんだわ」
羨ましい、そんな色が乗っている声に知らないふりをして大人ぶる。
「じゃあ、大人になった君に今夜、僕が魔法をかけてあげよう」
そんな私の『大人ぶり』を、彼はいつも、まるで父のように、兄のように、友のように笑って救い上げる。
「どんな魔法をかけてくれるの?」
期待をやめた大人が、魔法使いの魔法を心待ち、なんて。
「僕は魔法使い。君は僕の魔法で風になる」
ビビデバビデブー、そう言うと広いスペースに手を引かれる。
「風は自由だ。回ったり駆けたり、跳ねたり飛んだり。君は今、僕の魔法で風になった」
どうしたい?その彼の言葉は、まるで本当に魔法にかけられたようで。
「…南に吹く、風がいいわ」
奏でられる音楽に身を任せて、一歩踏み出す。
「いいね、じゃあ僕は」
大きな目を眩しそうに細めた彼は、魔法を周囲に振りまくような。
「それに乗って旅する鳥だ」
言うと同時に踏み出したステップは、南を目指す渡り鳥のように力強く、眼差しは光に溢れている。
もっと。もっと。もっと。
回る足は軽やかに、リズムを口ずさむ唇は弧を描く。
魔法の夜は、始まったばかり。
夕方は人気の無くなるこの場所は、夜になると淡いオレンジ色の電灯で照らされバルの明かりが窓からもれる。
昼間の喧騒よりも静かで、でも夜中独特の静けさより賑やかなこの時間が、私は一等好きだったのだ。
「…まあでも、今はもうはしゃいで踊るなんてしないけどね」
石畳みの道路に置かれたテーブルにサングリアを置いて、流しのミュージシャンの奏でる音楽に身を任せた若者のグループを見つめる。
「いいじゃないか、踊れば。またあの頃みたいに」
同じテーブルでエールを飲む彼も、昔は若者らと同じように手を取り合って踊って、そして夢を語り合った。
私も、彼と彼の友人達の楽しそうな雰囲気に惹かれて同じように真似ていった。
そしてそれは、どんどんと若い世代に継がれていって、今はもう私達は見守る役目。
「バカね、もうあんな風に気楽に楽しめるほど若くはないのよ」
「でも全てを捨てるほど老いてもない。未来に夢を語っていたあの時の君はどこへ消えた?」
「何年前だと思ってる?もう両手を超えるほど前の話よ」
クスクスと笑うとグラスに口をつける。甘酸っぱくて苦い味が口に広がる。
「昔はワインが苦手だったのよ。苦くてこれでさえ飲めなかったの。…でももう飲める。酸いも甘いも、もちろん苦いのだって嚙み分ける事ができるのよ」
グラスを置いて、また踊る若者達を見つめる。
不安定な石畳を軽い足取りでクルクルと回る彼ら彼女らは、きっとまだまだ夢で溢れているのだろう。
弾けるような笑顔に、遠い日の自分を思い出す。
「君は、いつから自分が大人になったんだと思う?」
静かなその声には顔を向けず、穏やかに凪いだ心で答える。
「期待しないでいる方が楽なことに気付いたら、大人になってしまうんだわ」
羨ましい、そんな色が乗っている声に知らないふりをして大人ぶる。
「じゃあ、大人になった君に今夜、僕が魔法をかけてあげよう」
そんな私の『大人ぶり』を、彼はいつも、まるで父のように、兄のように、友のように笑って救い上げる。
「どんな魔法をかけてくれるの?」
期待をやめた大人が、魔法使いの魔法を心待ち、なんて。
「僕は魔法使い。君は僕の魔法で風になる」
ビビデバビデブー、そう言うと広いスペースに手を引かれる。
「風は自由だ。回ったり駆けたり、跳ねたり飛んだり。君は今、僕の魔法で風になった」
どうしたい?その彼の言葉は、まるで本当に魔法にかけられたようで。
「…南に吹く、風がいいわ」
奏でられる音楽に身を任せて、一歩踏み出す。
「いいね、じゃあ僕は」
大きな目を眩しそうに細めた彼は、魔法を周囲に振りまくような。
「それに乗って旅する鳥だ」
言うと同時に踏み出したステップは、南を目指す渡り鳥のように力強く、眼差しは光に溢れている。
もっと。もっと。もっと。
回る足は軽やかに、リズムを口ずさむ唇は弧を描く。
魔法の夜は、始まったばかり。
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