「……道?どしたの?」
「…………」
「おーい、道ー?」
汐の部屋で、俺よりも広い背中に抱きつく。
普段こんなことしたらギャーギャー煩くなるのに、今日は気遣うように声をかけてくる。
(こういう時に限って静かになんだよな)
いつもウザイくらいにスキンシップを取ってくるくせに、空気をきちんと読むあたりが皆から好かれる理由なんだろう。
ああ、今は煩くはしゃいでくれれば良かったのに。
いつもみたいに笑ってくれれば良かったのに。
じゃないと思い出してしまう、俺を、汐を傷付ける為に発せられた言葉が。
『同性愛とか気持ちわりー』
『ホモとかないわー、近寄んなよ』
つい先日、俺が一人の時に見知らぬ人からかけられた言葉。
まあ俺達の関係はフルオープンだから、何処かから聞いてきたんだろう。
(気持ち悪いって思うんならなんで、傍に寄ってくるんだよ)
あの時の光景がフラッシュバックして、抱きつく腕に力が篭る。
涙が出てきそうなのを必死に堪えて、唇を噛み締める。
「…みーち、一回手ぇ離して」
「……いやだ」
予想以上に声が震えてしまって、羞恥に顔が赤くなってしまう。
剥がされないように前に回す手で服をギューっと掴む。
「道の顔が見れなくってさみしーなー、いつもみたいにギュッてしたいなー」
「………」
「…ほら道、おいで」
こんな酷い顔を晒したくないけど、甘い誘惑に勝てる筈がなかった。
素直にするのも癪なので渋々を装った体で体を離し汐の前に回る。
すると、膝の上に抱えられて腕の中に閉じ込められた。
「あー道の匂い落ち着くなー」
「変態かよ」
「事実だよ?!」
喚く声を無視して目の前にある肩に顔を押し付ける。
確かに落ち着くが、言ったらうるさくなる事確実なので言わないでおこう。
「…道、俺は道のこと大好きだよ。愛してる」
「っ、」
「だからね、そういう悲しい顔してるの見たくないなぁって。…道は我慢しちゃうんだよな、二人で抱えないといけないことも全部一人で持っちゃうんだ」
俺はそれがすごく寂しい、と頭を優しく撫でられた。
チラリと汐の顔を盗み見てみると、悲しそうに微笑んでいた。
「ねえ、悲しいのも嬉しいのもどっちも俺に分けてよ。片方が頑張って抱えすぎるといつか折れちゃうんだからさ。……俺は自分の大切な人が折れるのは見たくないからさ、頑張んなくていいんだ」
甘い声がくすぐったくて、でも少し切なくて、胸が締め付けられる。
(ほんと、こいつは俺に甘いなぁ)
汐の為だったらあんな言葉なんて我慢してやろうと思ってた。
けど少し折れそうになったから、『まだ頑張れるように』、そんな思いを込めて抱き締めたのに、まさか頑張んなくていいと言われるとは。
「ねえ道隆。教えて、悲しんでる理由」
優しいその声に、縋るように口を開いた。
全部を伝えきった俺の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。
ゴシゴシとこすると、慌てて腕を掴まれる。
「目ぇ痛くなっちゃうから擦んないの!」
近くにあったタオルを目元に優しく押し当てられる。
いつの間にか嗅ぎ慣れていた柔軟剤の匂いが微かに香る。
「……汐、」
「なあに、どしたの?」
「折れないでよ。…頼むから」
俺も、何気ない言葉で、意図しない言葉でまた折れそうになるかもしれない。
汐もこの先、そんな言葉で折れそうになるかもしれない。
その時はちゃんと支えるから、頼るから。
一人で抱え込むのはこれが最後、だから汐も抱え込まないでと少しの我が儘。
「当たり前でしょ」
屈託なく笑う顔を見て、『こいつを好きになって良かった』と柄にも無くそう思った。
「…………」
「おーい、道ー?」
汐の部屋で、俺よりも広い背中に抱きつく。
普段こんなことしたらギャーギャー煩くなるのに、今日は気遣うように声をかけてくる。
(こういう時に限って静かになんだよな)
いつもウザイくらいにスキンシップを取ってくるくせに、空気をきちんと読むあたりが皆から好かれる理由なんだろう。
ああ、今は煩くはしゃいでくれれば良かったのに。
いつもみたいに笑ってくれれば良かったのに。
じゃないと思い出してしまう、俺を、汐を傷付ける為に発せられた言葉が。
『同性愛とか気持ちわりー』
『ホモとかないわー、近寄んなよ』
つい先日、俺が一人の時に見知らぬ人からかけられた言葉。
まあ俺達の関係はフルオープンだから、何処かから聞いてきたんだろう。
(気持ち悪いって思うんならなんで、傍に寄ってくるんだよ)
あの時の光景がフラッシュバックして、抱きつく腕に力が篭る。
涙が出てきそうなのを必死に堪えて、唇を噛み締める。
「…みーち、一回手ぇ離して」
「……いやだ」
予想以上に声が震えてしまって、羞恥に顔が赤くなってしまう。
剥がされないように前に回す手で服をギューっと掴む。
「道の顔が見れなくってさみしーなー、いつもみたいにギュッてしたいなー」
「………」
「…ほら道、おいで」
こんな酷い顔を晒したくないけど、甘い誘惑に勝てる筈がなかった。
素直にするのも癪なので渋々を装った体で体を離し汐の前に回る。
すると、膝の上に抱えられて腕の中に閉じ込められた。
「あー道の匂い落ち着くなー」
「変態かよ」
「事実だよ?!」
喚く声を無視して目の前にある肩に顔を押し付ける。
確かに落ち着くが、言ったらうるさくなる事確実なので言わないでおこう。
「…道、俺は道のこと大好きだよ。愛してる」
「っ、」
「だからね、そういう悲しい顔してるの見たくないなぁって。…道は我慢しちゃうんだよな、二人で抱えないといけないことも全部一人で持っちゃうんだ」
俺はそれがすごく寂しい、と頭を優しく撫でられた。
チラリと汐の顔を盗み見てみると、悲しそうに微笑んでいた。
「ねえ、悲しいのも嬉しいのもどっちも俺に分けてよ。片方が頑張って抱えすぎるといつか折れちゃうんだからさ。……俺は自分の大切な人が折れるのは見たくないからさ、頑張んなくていいんだ」
甘い声がくすぐったくて、でも少し切なくて、胸が締め付けられる。
(ほんと、こいつは俺に甘いなぁ)
汐の為だったらあんな言葉なんて我慢してやろうと思ってた。
けど少し折れそうになったから、『まだ頑張れるように』、そんな思いを込めて抱き締めたのに、まさか頑張んなくていいと言われるとは。
「ねえ道隆。教えて、悲しんでる理由」
優しいその声に、縋るように口を開いた。
全部を伝えきった俺の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。
ゴシゴシとこすると、慌てて腕を掴まれる。
「目ぇ痛くなっちゃうから擦んないの!」
近くにあったタオルを目元に優しく押し当てられる。
いつの間にか嗅ぎ慣れていた柔軟剤の匂いが微かに香る。
「……汐、」
「なあに、どしたの?」
「折れないでよ。…頼むから」
俺も、何気ない言葉で、意図しない言葉でまた折れそうになるかもしれない。
汐もこの先、そんな言葉で折れそうになるかもしれない。
その時はちゃんと支えるから、頼るから。
一人で抱え込むのはこれが最後、だから汐も抱え込まないでと少しの我が儘。
「当たり前でしょ」
屈託なく笑う顔を見て、『こいつを好きになって良かった』と柄にも無くそう思った。
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